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「セックスアンドザシティー2」-女は何故男より長寿なのか-
- 2010.10.1
「セックスアンドザシティー2」は、そもそもニューヨークに暮らす四人のアラフォーからアラ50に突入しつつある女性の日常を赤裸々に描いたテレビドラマで、主人公たちの生様が同世代の女性に共感を呼んだのか、アメリカで大ブームとなった。さらにこれを映画化したところ、これも評判となり日本でも話題を呼んだ。今回は2年ぶりにその続編が作られ、またまたヒットとなった。われわれ男にとっては、世の中のオバタリアンパワーに辟易している部分があり、この人気の理由が少し理解不能な部分もあるが、女性のほうは、もう若くはないがブランドの服や靴に身を包み、人生を悩みながらもバイタリティーを持って前向きに生きるこの女性たちにスカッとするような共感を抱くのが人気の秘密なのかもしれない。一作目では、それぞれが置かれた境遇の中で、躓きながらも進むべき道を追求し、それなりの幸せをゲットするところで終わったが、その続編にあたる今回は、またもや四人それぞれが何らかの問題で悩んでいる。もはや52歳となったサマンサは広告会社の社長として辣腕を振るってはいるものの、更年期障害と戦っており、ホルモン剤が手放せない。シャーロットは二人の子供の子育てに振り回されている上、夫のハリーの愛を完全には信じ切れず、ベビーシッターと浮気をするのではないかという他愛も無い妄想に苛まれている。ミランダは弁護士であるが、新しい上司とうまくいかず、悩んでいる。ビッグとロマンチックな結婚をしたはずの小説家のキャリーも、理想と程遠い結婚生活の中で、その大きなギャップに悩んでおり、夫との価値観の違いにいらだちを隠せない。そんな中、サマンサがアラブの大金持ちから、アラブ首長国連邦の主都アブダビに来てみないかという誘いを受けたことをきっかけに、四人は連れだってかの地でゴージャスな休暇を過ごすことする。砂漠の中を、思い思いのブランド衣装を身にまとい歩く四人、中年女性の少し甘くてほろ苦いドタバタ喜劇が繰り広げられる。
人生に迷いや悩みがなくなったとしたら、それはボケかやってきたときに相違ない。不惑という言葉があるように、人は40歳代から、なんとなく体の老いを感じ始め、「こんなはずではなかった」と悩むようになる。初老期うつ病の走りである。しかも家庭や職場のごたごたも、愛の力や気力、バイタリティーだけではどう仕様もならなくなるのもこの頃だ。女性の場合は、この頃から二大女性ホルモンの分泌が減少していき、更年期を迎えることになるため、どんなに頑張っても若い女性を演じることは難しくなる。だからそこに焦りが生じる。女性はお互いが適当に不幸であると共感を持ち助け合う習性がある。この映画の四人が何だかだと言いながらも良くわからない絆で結ばれているのは私生活で程よく(大きな問題にならない程度に)不幸で、もう若くないという共通の認識があるからなのかもしれない。
女が美しく老けるため、努力を惜しまないのは当然のことである。女性は男性よりずっと長生きするため、少しでも老醜をさらけ出さないように努力が必要である。夫に先立たれても、もうひと花咲かせたいと密かに夢見ている女性であれば、きっと年齢に関係なく美しいと思える老人になるのかもしれない。
女性の平均寿命が男性より長いことは人種を問わず共通の現象である。特に先進国では5年~10年も長い。100歳以上生きているのも女性が圧倒的に多い。こうした現象はヒトのみならず、霊長類でも共通している。何故そうした普遍的な現象が起こるのかについては様々な仮説が提唱されている。
たとえばエストロゲンの作用により、女性の閉経前には動脈硬化が起こりにくく、このため女性が心血管障害にかかる年齢は男性より遅いことが一因とする説がある。心血管障害は、男性は50-60代に発病することが多いのに対して、女性の場合には70-80代が中心である。
鉄は生体内に過剰に存在すると活性酸素傷害を引き起こし、細胞膜やDNAを破壊して、細胞や組織の老化を早めるため、鉄の貯蔵量が男性に比べて少ない女性が長生きだとする学説もあながち否定できない。女性は月経の影響もあり、血中のヘモグロビンのレベルが男より低い。これが、細胞の老化を妨げているのではないかという訳である。
そのほか男女の寿命差を説明するために様々な仮説が挙げられているが、結局のところこの差は遺伝子を構成しているX、Y遺伝子の違いに起因するとする説は前述の仮説以上に説得力がある。X遺伝子には女性を決定する遺伝情報のほか、約1000ほどの遺伝情報が書き込まれているが、他の常染色体遺伝子同様、加齢に伴い、遺伝子は様々な侵襲にさらされ、傷ついていく。傷つくと場合によってはその遺伝子が消滅してしまう可能性もある。女性の場合は何らかの原因でX染色体に異変が現れても、リザーバーとして存在するもう片方のX染色体が代替機能を果たすことできる。一方男にはY染色体ひとつしかないので、染色体の損傷は、ストレートに病気に結びつくというわけである。老化などに伴い傷つき機能しない遺伝子が生じるとそのまま子孫の男性に引き継がれることになる。そもそもこの遺伝子はX染色体と相同染色体を形成していたらしいが、X染色体より圧倒的にみじめな運命をたどっている。Y染色体は、父親から組み換えを起こすことなくそのままの形で息子に伝わる。全く同じY染色体が修復されること無く代々受け継がれる訳である。X遺伝子のようにリザーバーをもっていないこの遺伝子は、コピーミスが生じたり、修復不能な傷害を受けたりすると、染色体の中の遺伝子数が減少するといった事態も起こる。だからこうした過程を繰り返して、Y染色体は遺伝子の数を減らしてきたと考えられている。Y染色体は現在でも約80個くらいしか遺伝情報を有しておらず、今後さらに減り続け、600万年も経つと消滅する運命にあるというから大変だ。
最近、日本の研究グループが、遺伝子操作を駆使したマウスの実験で、通常の受精による父親と母親の遺伝子の組み合わせではなく、2匹の母親の遺伝子を遺伝子工学の技術を使い組み合わせて作成したマウスでは、通常のマウスより1.5倍も長生きするとする実験データを明らかした。このことは、女性にのみ長寿を決定する遺伝子がある可能性を示し、興味深い。
ところで今年の8月の終わりに数日間、アラブ首長国連邦の経済の中心都市、ドバイに行ってきた。最高気温、50℃、最低気温でも30℃を下回らない異常環境の中で作られた、まるで木の枝のように埋め立て作った数々の人工島、世界最大の空港やショッピングモール、世界一高いタワー、収容人員1000人を超える巨大ホテル、世界一大きい噴水など、数々の人工産物を目の当たりにしてきた。イスラムの女性は黒い重装備の衣装を見にまとっていることも関係しているのか、部屋の中はどこも異常に寒い。つい数十年前、閑散とした貧しい漁村であったこの地域が、人工国際都市に変貌したのは、偏にオイルマネーによるところが大きい。この街には人工スキー場まである。東京ドームのような広さの空間を外気が50℃の環境の中で、0度以下にするにはどれほどのCO2を排出するのかを考えるとぞっとするが、歴史的遺産など自然の観光資源のないこの街にあっては、こうした呼び物を次々に作っていかなければ人は集まり続けないのであろう。この構図はいつか破綻すると確信する。そもそも通常、人が住めないような異常な気候の中で快適に住むためには、エアーコンディショナーをはじめとする環境作りが必要になる。超暑いからエアコンを使う。そうすると地球環境が悪化し更に暑くなる。更にエアコンなどの環境整備が必要になる。もうこの悪循環は止まらない。