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「ベイマックス」-介護ロボット

  • 2015.04.1

お掃除ロボットの出現は一寸した驚きであった。放っておいても部屋の掃除をしてくれる。予約掃除もOKだ。家内はこれに飛びついた。しかし当初発売されたロボットは四角い部屋を丸く掃いたり、同じところを行ったり来たりするなどいくつかの問題点があった。わが家のロボット君も次第に掃除をし残したり、途中で止まるようになってきて、半ば愛想をつかした女房は最近はあまり掃除命令を出していないようで、部屋の隅で埃を被っていることが多くなった。でも最近は更に進化した三角型ロボットが出現して部屋の隅々まで掃いてくれるという。そろそろ買い換えようかと思ったりしている。

 

介護分野のロボットも開発競争が盛んである。高齢者の脳卒中後遺症による四肢の麻痺、腰椎症、頚椎症、変形性股関節症、膝関節症などの整形外科的疾患、認知症、様々な難病の介護は、社会福祉がうまく機能しないと、弱者切り捨ての社会が広まり、こうした弱者の行き場が無くなってしまう。現在様々な介護ロボットが開発されようとしているが、筑波大学のグループが世界で初めて体の神経、筋肉から発生する微細な活動電位を読み取り動作するロボットスーツ、HALを開発し、新潟大学などのグループなどが治験に参加し臨床応用されようとしている。

 

HALという名前はスタンリーキューブリックの「2001年宇宙の旅」に登場するロボットの名前にちなんでいる。あの映画が公開された当時、あのように人間を翻弄するようなロボットなんて出現するはずがない、と思ったものだが、今や現実のものとなりつつある。

 

HALには二つのタイプが存在する。HAL 3号は足のみを対象にしているのに対し、HAL 5号は全身型でこのスーツに身を包むと動かなくなった四肢が動くようになる。患者の皮膚に流れる微細な電流をセンサーが拾い、コンピュータ―で変換され、微弱な動きを補助するようにスーツが動作する。HAL 5号は装着者が本来持てる重量の5倍の重量を持つことができるらしく有用なロボットではある。。実際に装着してみるとその威力はたちまち実感することができる。そして思いのほか軽いことに驚く。これを着て歩いたり手を挙げてみたりすると、ほとんど自分で能動的な努力が要らないような感じになる。しかし問題は価格である。とても個人が購入できるレベルではない。

 

筋委縮性側索硬化症(ALS)や私が研究している家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)患者では、発症して2-3年すると手足、特に足の動きが衰え、だんだん車椅子を使わなければ移動できなくなる。脊髄小脳変性症の患者などは、四肢の筋力は十分あるが失調症状のためやはりうまく歩けなくなる。神経疾患を持つ患者はこうした障害を持つものが多く、介護者の負担は重くなる一方だし、歩きにくいと歩かなくなりやがて関節が拘縮して更に日常生活に支障をきたすようになる。また患者も、日増しに動かなくなる手足に対する絶望感、進行していく焦燥感などが募っていく。このスーツを着て、かつて動いていた手足がまた動くようになる驚きを目の当たりにすると嬉しくなるが、前述のようにこのスーツは一般人では高すぎて買えないし、買えたところで、病気の進行は止まらない、というところが辛い。

 

映画「ベイマックス」(ドン・ホール/クリス・ウイリアムズ監督)は介護ロボットと最愛の兄を事故で亡くした少年ヒロとの「悪」との戦いを通して描かれる「友情」を描いていて心地よい。

 

まるで東京とサンフランシスコを合体させたような未来都市サンフランソウキョウに住むタダシとヒロ兄弟は、幼い頃に両親を亡くしていたが二人は本当に仲の良く、助け合って生きてきた。弟のヒロの方は、寂しい思いを紛らわすかのように一寸したワルとなり補導されたりしていた。どういういきさつかは知らないが二人には親代わりとなって面倒を見てくれているキャスがいて警察に補導されたヒロを迎えに行ったりしてくれていた。ヒロは14歳であるが天才的な頭脳を持ち、マイクロボットという意のままに動かすことのできる掌サイズのロボットを開発していた。

 

タダシも大学でキャラハン教授の元でロボットの開発を研究していたが、そんなヒロの能力を生かそうと思い、ある日、研究室に連れていく。そこで、ヒロはタダシの大学の友人であるハニーレモン、ゴーゴー、フレッド、ワサビの三人と意気投合する。そこでは様々なロボットの展示会が行われていたが、タダシが作った白くふわふわして優しそうなケアロボットを目にする。それは人と争わず、人の傷ついた体と心を癒してくれるように作ったロボットであった。タダシはそのロボットに、ベイマックスという名前を付けていた。

 

ヒロはキャラハン教授の前で自分が開発したマイクロボットをプレゼンテーションしたところ、教授は大いにこれに興味を示してきた。

 

しかしそこに同時に居合わせた怪しい人物、アリステアクレイは、このロボットを自分の会社で製品にさせてほしいと申し出る。もともと儲けるためにロボットを開発したのではないヒロは、この申し出を断る。外に出てタダシとヒロが会話していると突然ロボット展示会場で火災が起きる。猛火の中、タダシは中にいたキャラハン教授を助けに行き帰らぬ人となってしまう。

 

最愛の兄を失い、生きる気力すら失ったヒロであったが、兄が残したベイマックスが傷ついたヒロの心を癒すためにやってくる。

 

ベイマックスと共に前向きに生きようと始動し始めた頃、ヒロの発明したマイクロボットが突然動き始める。ロボットの指す方向に歩いていくと、ある倉庫に行きあたる。なんとそこではヒロが開発したマイクロボットが大量に作られているではないか。そして、歌舞伎のマスクをかぶった男が突然現れて、ベイマックスとヒロを襲おうとする。

 

命からがら逃げ帰ったヒロは、タダシの死に疑問を持ち、この仮面男と関連しているのではないかと疑念を抱くようになる。ヒロは優しくて戦闘能力のないベイマックスを戦うロボットにするため、ファイティングモードのチップを埋め込み、強化スーツを装着させ、ハニーレモン、ゴーゴートマゴ、フレッド、ワサビの4人にも戦闘用にプログラミングされたスーツを装着させて、最強の戦闘ヒーロー「Big Hero 6」を誕生させる。

 

壮絶な戦闘が始まるが、結局、仮面男の正体はロバート・キャラハン教授であることがわかる。教授はヒロの発明品マイクロボットが欲しかったので、あの日わざと火事を起こして、マイクロボットを奪ったのであった。しかしその後、教授がこのようなことをした本当の理由は、教授の娘がアリステアクレイの闇組織で開発された瞬間移動装置の開発で犠牲になったため、その敵を撃つために歌舞伎の仮面を被り、この装置を開発している彼にリベンジしようと考えていたことがわかってくる。娘の恨みをはらす一心でマイクロボットを駆使して巨大な瞬間移動装置を設置し、アリステアクレイをこの装置に飲み込ませようと考えたのだった。

 

そんな中、ベイマックスはなんとこの瞬間移動装置の中でまだ生きている教授の娘の存在をキャッチし、ヒロとベイマックスは勇気を出してこの装置の中に助けに入る。

 

人を守るために開発されたミッションを持つベイマックスは自身を犠牲にして、ヒロとアビゲイルキャラハンをこの装置から脱出させ、ベイマックスはそのまま異次元の中に飲み込まれることになる。

 

老人の孤独死が多い中、本当に必要なロボットはそうした一人暮らしの老人の話を聞き、心を癒してくれるロボットなのかもしれない。一人ぼっちになってしまった母を見ていてもそう思う。この映画ではベイマックスが、人間の感情を完璧には理解できていない姿がうまく描かれている。だから最後の別れも決してじめじめしたものとしては描かれてはいない。今のスピードでロボットが開発されて行っても、心の機微までわかるロボットが作られるようになるのは随分と時間がかかるのかもしれない。

Copyright© Department of Neurology, Graduate School of Medical Sciences, Kumamoto University.