寄附講座
脳卒中治療学寄附講座
1.スタッフ
- 特任教授 木村 和美 (きむら かずみ)
- 特任助教 木村 龍太郎 (きむら りゅうたろう)
2.講座の特徴
当講座は、2024年12月に開設された新しい講座です。主な特徴は、脳卒中の臨床研究の推進および熊本県における脳卒中医療の発展にあります。現在、当講座で実施している臨床研究についてご紹介いたします。
1)STABLED研究
本研究は、脳梗塞の既往を有する非弁膜症性心房細動患者を対象に、エドキサバンによる抗凝固療法に加えてカテーテルアブレーションを併用した際の有効性および安全性を、多施設共同前向きランダム化比較試験により明らかにすることを目的としています。目標症例数は205例で、主要評価項目は「脳梗塞の再発」「全身性塞栓症の発症」「総死亡」「心不全による入院」です。2018年に研究が開始され、全国52施設のご協力を得て2021年に目標症例数を達成し、観察期間も終了しました。現在、データ固定と解析は終わり一流誌への投稿を予定しています。
2)SKIP EXTEND研究
2015年に、発症から6時間以内で前方循環領域の主幹動脈閉塞を有する急性期脳梗塞に対する血管内治療の有効性が報告されて以降、本治療法は広く普及しました。現在、日本の脳卒中ガイドライン2021では、6~16時間は推奨度A、16~24時間は推奨度Bとされています。一方、後ろ向き研究では24時間以降の有効性が示唆されているものの、最終健常確認時刻から24時間を超えた症例に対する血管内治療の有効性を検証したRCTは存在しません。本研究では、主幹動脈閉塞を認める脳梗塞患者において、最終健常確認時刻から24~168時間が経過した症例を対象とし、従来の内科的治療(Best Medical Treatment群)と、血管内治療を加えた治療(EVT群)を比較します。発症90日後の転帰の違いを評価し、血管内治療の有効性を明らかにすることを目的としています。AMEDの支援のもと、全国50施設で実施中であり、世界のガイドラインを変える可能性のある研究と位置付けています。
3)LACUNAR-tPA試験
日本医大の坂本先生と一緒にラクナ梗塞に対してt-PA静注療法がDAPTと比べて効果があるかのRCTする研究です。日本の脳梗塞急性期医療は、MRIを用いることが多く正しく診断ができます。t-PA静注療法の効果が明らかでない場合は、t-PA静注療法の副作用や経費も削減されます。すごく期待される研究です。
4)熊本県における脳卒中診療と研究の発展に向けて
熊本県内で急性期脳梗塞にたいして血管内治療が可能な施設は、決して多くはありません。熊本県の人口は約170万人で、年間約1700例の脳梗塞が発生していると推定されます。そのうち約3割が血管内治療の適応とされるため、およそ500例が治療対象となります。熊本市内では、救急隊による患者スクリーニングツールである「ELVOスクリーン」などが導入されていない現状があり、これらの導入を検討したいと思います。血管内治療専門医は依然として不足しており、限られた医療資源を有効に活用する新しい体制が求められています。熊本県内の脳卒中基幹病院が連携して研究を推進し、「熊本発」の成果を日本全国、さらには世界へと発信していきたいと考えています。